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クリーニング店(2)

いつだったか、久しぶりに行ったら

おばさんも足を悪くしていて、今までカウンターの前におじいさん用の杖が一本あったのが
二本になっていた。

それから、いつのまにか、戸を開けたところの横の、刺繍糸やボタンの引き出しもなくなっていた。
それから、戸の前にいくつも並んでいた、きれいな花々の鉢もだんだん消えていった。

春夏秋冬、さまざまな花が、植木鉢に植えてあって、咲いていた。まだ歩けていた母を連れて行ったときは、
母は花々を見て、何か言いたそうだった。

「きれいですね、奥さんが手入れを?」とか言いたそうだった。こうした、きめの細かい手入れをする人が母はとても
好きだったのではないかと思う。もう、その時にはことばを失っていたのだが、あの「きれいな花・・・」というまなざしでガラス戸の外を眺めていたから、母はそんなことが、おばさんに対していいたかったのではないかと思う。

ともかく、あの店に入ると「昭和の雰囲気」がした。のんびりとした、ひっそりとした・・・。ひとは決してべちゃくちゃとしゃぺらない。当たり前のことを当たり前に静かにやっていて・・・。

ポイントカードもなかったけれど、お得意のお客さんたちがいるらしく、日曜の午後など、たった一人しかはいらないカウンターの前にどっさり積んだ洗濯物を前にして、どこかの奥さんが、おばさんと長話をしていた。

しかし、わたしは、足のわるいおばさんが、おそらく二階から来てくれるのが申し訳なく、また10時から15時の間に行くのもなかなか難しく、別のクリーニング店に行ったりしていた。

で、姪っ子が「クリーニング出しに行くよ」と言ったので、あ、そうだ、姪はクリーニングと言えば、あのおばさんのところだと思っているのだな、と気がついた。

おばさんとたった一回、長話をしたことがある。「ご主人は・・・?」と聞いたら、おばさんが、実は入院していて・・・と話し出したのである。長く入院する病院を探すのが難しいこと、一人暮らしになってしまって困ること、などをおばさんは話した。ほんとに世間話で、なんの衒いも、同情を求める風でもなく、まるで、小津映画の登場人物のように、「ホント、困ったわねえ」というように話したのである。わたしもじぶんのことを話した。

帰ってきた姪に「おばさん、いた?」と聞いたら、「いたよ」と答えた。「10時から3時までならいるんだよ」と。

なんか、ほっとした。



by takanak | 2018-05-20 18:53 | 日々の暮らし | Trackback | Comments(0)

海辺の美術館の庭から


by なかすぎこう
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